NHK「学びのきほん」シリーズ。 「はみだしの人類学 ともに生きる方法」

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この本を手に取った理由は2つあります。

まず、タイトルに惹かれました。「はみだしの人類学」ってなんだ?と単純に興味を持ちましたが、その後に続く「ともに生きる方法」という言葉が「はみだす」とは対義的な意味を持つと思いました。

この矛盾しているようなタイトルがどういう意味を持つのだろう?と思い、手に取ろうと思いました。


2つ目の理由は大したものではないのですが、元々低価格なのにさらに安くなっていたからです。(今ならKindleで期間限定キャンペーンで価格が下がっています)

 

 

著者は文化人類学者である松村圭一郎さん。

編集者の白川さんが取材をしながら結論へ導くというスタイルで構成されたようで、とても読みやすいです。

この本は、グローバル化が進む現代の世界で、多様な文化を持つわたしたちがどうすればともに生きることができるかを文化人類学の鍵となる2つのキーワードを用いて教えてくれています。

 


キーワードは「つながり」と「はみだし」。

人間は差異に満ちた他者とともに生きていますが、この差異の捉え方を「つながり」の視点から紐解いています。

文化人類学では、「つながり」には以下の二つの意味を持つと言います。

・自己と他者の差異を強調する方法

・境界を越えて交わる方法


私たちが異なる他者を理解する上でこの2つの視点を理解することが非常に重要です。これらは何も難しいものではなく、私たちが体感したことがあるものです。

 


一つ目の、自己と他者の差異を強調する方法は、SNSのいいねが例に挙げられます。

「わたし」の固有の輪郭が確かなものへと感じられるつながりであり、自己と他者の輪郭を強調するようなつながりを指します。「わたし(たち)」と「かれ(ら)」の間に引かれた”境界線”が固定化すると、次第に唯一の絶対的な境界線に見えるようになります。この、引かれた境界線が変わらない絶対的な輪郭だと勘違いされてしまうと、その輪郭を維持するために異質な他者が見つけ出され、差異が強調され、排除されます。

いわゆる内戦、戦争、テロが起こる状態です。


これを見て、私はロシアによるウクライナへの軍事侵攻を思い浮かべました。

プーチン大統領がなぜウクライナ侵攻を決めたかは今ひとつわかりませんが、他者との関係性の中で絶対的に相容れない境界線が引かれ、自分の中の何かを守るために侵攻という強硬手段が取られたのではないかとも感じます。https://news.yahoo.co.jp/articles/2a8c201e8927db6603b5e64e5c2685e25dba8fe2

私は絶対的に戦争は許されないことだと思っていますが、生きていく中で他者を排除するような排他的な考えや態度は、これらの望まない行動を容易に引き起こす可能性があると考えます。


自己と他者の差異が強調されるようなつながりの考え方は度が過ぎると紛争のようなものを引き起こす可能性があると考えられる一方で、歴史はこの境界線を開き、別の境界線でくくりなおす作業がずっと繰り返されてきたようです。

これは二つ目の「境界を越えて交わる」つながりを説明します。

 


本の中ではこのように説明されています。

 


”見知らぬ他者と出会い、別の生き方や可能性に触れることで、それまで自分の中で「輪郭」だと信じていたものが揺さぶられる。その揺さぶりによって私の中の大きな欠落に気づく。その欠落を埋めようと私がそれまでの輪郭をはみ出しながら他者と交わり、変化していく。”


ここでお気づきかと思いますが、境界を越えて交わるつながりには、二つ目のキーワードである「はみだし」が含まれます。また、この文には次のような文が続きます。


”このような揺さぶられる感覚は誰もがどこかで経験したことがあるはず。

異質な他者だと思っていた人々と長い時間を過ごすうちに、それまでの私の輪郭が溶け出し、境界線が開かれ、その外側へとはみ出していく。そうした他者との関わりが生まれるようなつながりを文化人類学は大切にしてきた。”

 


この考え方について私はすごく共感します。

現在私は32歳ですが、この32年間いろいろな人と関わる中で自分の性格が変化してきたことを感じています。

20代の頃は、自分が何者であるかがわからず、他者と関わることによって自分のアイデンティティが脅かされるような感覚がありました。

ですので、いつも人との深い関係を避けていたような気がします。

しかし、その中で出会った人たちの中に「いいな」と思う行動や考えに触れ、自分には無理と制限をかけていた物事に挑戦する中で、少しずつ人の意見を受け入れられるようになりました。

今では、そのような人との関係性があったから、自分では想像していなかった多くの物事に触れることができ、自分の考えをアップデートすることができたと思っています。

このように感じれるようになったのはここ3年くらいなので、まだまだ私自身は成長の初期段階にいるような気でいます。

これからもたくさんの人と交わる機会があると思いますが、関係性の中で多くのことを吸収しながら、自分自身が変わり続けることを楽しみたいと思います。