映画【エゴイスト】

「エゴイスト」さきほど映画を見てきましたー。

感想はいろいろとありますが、最も強く思ったことは、「この作品を通して監督は観客に何を訴えかけたかったのだろう。どんな思いでこの作品を作ったのだろう。」という事です。

この映画は、見終わった後に周囲の人と感想を話し合っても、いわゆる決まった感想が出ないような複雑さを感じる作品でした。改めて、もう一度原作を読み返したい気持ちになりました。


この作品を見たきっかけは、小説が映画化されると知り原作を読んだことがきっかけです。この小説は、著者の自伝的小説であると言われています。というのも、すでに著者は病死されていてどこまでが真実で、どこまでが嘘なのかはわからないようです。

小説の魅力は、主人公の男と、男と恋人関係を持つ彼の人間性にあります。

主人公は自信家な仮面を被っていますが愛情に飢えた男で、この男の寂しさは、自信が抱えるセクシャリティーをきっかけに思春期に受けたいじめや、同時期に病気で母親を亡くすといったショッキングな生い立ちが影響していました。どこか恋愛に対して俯瞰的でスレた印象のある男とは違い、男とは対照的なほど温かい優しさを持つ彼に出会います。

彼は、見た目には苦労人であることを微塵も感じさせませんが、実は病気の母親を1人で看病しており、高校を中退しているという辛い過去を持っていました。愛情深い彼の言葉や態度、母親を大事に思う姿に男は癒され、何か自分が欠けてしまっている、人に対する愛情や母親への想いを彼に投影するような心情が小説では表現されていました。

この対照的な性格を持つ2人の男が互いに惹かれあい、癒され、そして依存していく。男は社会的には勝ち組とされる立ち位置にいるため、彼と彼の母親を金銭的な面でも支援するのですが、その後に起こる辛い結果(出来事)には、そんな風に生きるしか術はなかったのだろうか、何か違った支援は受けられなかったのだろうかととても虚しい気持ちになります。先ほど、2人の関係を「依存」と表現しましたが、もし仮に他の支援を受けることができていれば2人の関係性は違ったものになっていたかも知れません。

 

本作品は、まだまだセクシャルマイノリティーとされる関係が映画ではストレートに描写されています。正直、ここまで表現するのかと、度肝を抜かれる感覚と、正直言えばショッキングな感覚を覚えました。が、それが良かったのだと思います。普段耳にする程度のセクシャリティーについて理解が深まるような感覚がありましたし、そういう感覚になるほど主人公の男を演じた鈴木亮平さんと、恋人役を演じた宮沢氷魚さんがリアリティーさを持って演じられていたのだと思います。

映画では、小説でありありと描かれる男の繊細な心の動きが語られる場面は少なく、表情で語ることに徹した表現がされていました。私としては、もう少し男の心情を語りで入れてほしかったなという感じはしましたが、忠実にキャラクターを表現しようという鈴木さんの心意気を感じる演技と、宮沢さんのナチュラルな演技が光っていたので楽しめました。あえて心情を語らせないことで、作品を見終わった後に作品についてたくさん話しあってほしいという監督の意図があったのかも知れません。

この映画は、セクシャルマイノリティーや強者と弱者の存在する社会の有り様、愛情とエゴ、依存など様々な切り口について考えさせるものがあります。

もしご興味があれば見てみてください。

f:id:Horsetail:20230212203952j:image

©︎2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会